「飲食知味方」を再現した料理を味わう~慶尚北道を愛する親睦会

4月20日に目黒区緑が丘の趙善玉料理研究院にて、「慶尚北道を愛する親睦会」が行われ、歴史的な料理書である「飲食知味方(음식디미방、ウンシッティミバン)」を再現した料理が提供されました。

そこで「飲食知味方」が日本人観光客にとって慶尚北道を印象付けるものになればと思い、それについてここに記しておくことにします。

●飲食知味方とは

『飲食知味方』とは1670年にハングルで書かれた料理書であり、今風に言うならば昔のレシピ本です。慶尚北道・英陽郡の両班の家庭で、本家の長男の嫁だった張桂香(1598~1680)が晩年に娘や嫁に料理法を伝えるために書いたものです。

約350年前の料理ということで唐辛子が使われておらず、主に醤油やゴマ油、胡椒、山椒などで味付けしたものだということです。ニンニクもあまり使われていません。下の写真が料理の全体の写真です。

当時の料理書、レシピ本から再現されたもので、これらは一部の料理にすぎないわけですが、今ではあまりにも馴染みのない料理ばかりなので、そのなかから美味しかったものをいくつかピックアップしていきます。

こちらが蓮根菜(연근채、ヨングンチェ)といわれるもの。漢字を見るとわかりますが、ゆでたレンコンを醤油などで味付けしたものです。ごま油の風味が漂ってきましたが、それでもそのまま日本の食卓にも出てきそうです。

こちらの牛の胃を使った料理がヤンスク(양숙)というもので、煮込んだハチノスを醤油などで味付けしています。追記:※양(ヤン)は狭義ではミノの意味がありますが、ここでは牛の胃全体を指しているようです。

こちらが卵を用いた小麦麺の「卵麺法(난면법)」といわれるもの。そこに卵で作った飾りがのっています。当時の鶏卵は貴重であり、そう簡単に食べられるものではなかったそうです。なかなかコシがあり美味しい麺でした。

英陽郡の広報大使でもあり、今回の料理を作ってくださった韓国料理研究家の趙善玉氏は『飲食知味方』との出会いを「運命との出会い」と過去の新聞で語っています。
参考:運命の出会い「飲食知味方」…今に続く味の源流(民団新聞)


[慶尚北道を紹介する金光薫慶尚北道事務所所長(右)、趙善玉院長(左)、]

趙善玉氏によれば、「現代の韓国人は唐辛子やニンニクなどパンチの効いた味が好きだが、『飲食知味方』では醤油をベースに味付けするため日本人にも合う」と話しており、実際に辛さもなくニンニクも使われておらず、そういった味わいでいただくことができました。

実際に趙善玉料理研究院でも予約をすれば作ってくれると思いますが、実際にコロナ後に出かけてみたい人もいると思うので以下に記しておきます。まず慶尚北道・英陽郡は地図で表示されている場所です。

韓国に行ったときに「飲食知味方」を食べられる場所も記しておきます。民間の施設もあるようですが、「飲食知味方体験館(음식디미방 체험관)」があり、ここでは団体で予約をすることにより、この料理を味わえるとのことでした。

飲食知味方体験館
住所:英陽郡石保面トゥドゥルマウルギル 66番地

また慶尚北道の広報イベントでもあるため、慶尚北道についてもざっくりと記しておきます。

慶尚北道の住民登録人口は264万人(2020年末現在)。面積は韓国の道のなかで最も広い19,030平方キロメートル。かつては大邱市も慶尚北道に属していたのですが、主に大邱以北だと考えるとだいたいの位置がわかりやすくなります。

観光で訪れるにはこれまでは大邱空港を利用していましたが、今後は閉鎖されることが決まっており、2028年には義城郡・軍威郡のあいだに新空港ができます。

また有名な観光地としては安東河回村、新羅の都である慶州歴史遺跡地区、日の出の名所である浦項・虎尾串などの名所があります。そして歴史的には朴正煕元大統領が生まれた地であり、70年代のセマウル運動の発祥の地でもあります。

慶州・安東は韓国国内外からも訪れる有名な場所で他にも面白いところはたくさんあるのですが、ソウル・釜山から遠いのが難点であり、大邱に関心を持った人が郊外の都市に足を延ばすかどうかというところも観光面での課題なのかなとも思います。

この記事では「飲食知味方」という1600年代のレシピ本は慶尚北道英陽郡が発祥であり、これを慶尚北道という地域とリンクさせて記憶させていただければと思います。

吉村剛史(トム・ハングル)

投稿者: 吉村剛史(トム・ハングル)

1986年生まれ。ライター・メディア制作。大学時代から韓国にハマり、20代で韓国100市郡・江原道全18市郡踏破。1年8か月のソウル滞在経験があり、2021年1月に『ソウル25区=東京23区』を出版。新大久保の記事は「散歩の達人」2018年2月号 コリアンタウン特集、「新大久保コリアンタウン70年史」(海外ZINE)他 。プロフィール詳細 ホームページ Twitter:@tomhangeul